その腰が鞍に落ち着く前


「そちらの用事というのはどういうものなんだ、ドミ。ぺロイがこれほど西までやってくるのは珍しいことだと思うが」
「確かに、普段は東の辺境を離れることはまずない」クリングは歯で仔羊肉の塊を骨から引きはがした。「ここ数世代にわたって、ときどきゼモック人がペロシアの国境を侵そうとする試みがあってな。それで国鑽石水王が賞金をかけたんだ。連中の耳一つにつき、半クラウン金貨が一枚だ。これは楽な稼ぎになる」
「両耳そろえてか」
「いや、右耳だけだ。だからサーベルの扱いに気をつけないと、狙いがそれて賞金がふいになってしまう。まあそれはいいが、おれたちは国境近くでゼモック人のかなり大きな一団を見かけたんだ。何人かはやっつけたが、残りは逃げてしまった。最後に見たときはこっちへ向かっていて、しかも怪我人がいるらしく、血の跡が続いていた。それを追ってきたというわけだ。そいつらの耳を集めて賞金をいただく。あとは時間の問題だ」
「それなら少し時間を節約させてやれるかもしれん」ティニアンは大きな笑みを浮かべた。「昨日あたりから、かなりの数のゼモック人が背後に見え隠れしているんだ。そっちの探しているのと同じ集団かどうかは知らんが、いずれにせよ耳は耳だし、別の集団をやっつけたからといって、国王の金貨は同じように通用するからな」
 クリングは嬉しそう能量水 新聞な笑い声を上げた。
「まったくそのとおりだ、わが友ティニアン。それにもしかすると、このあたりには金貨二袋分がうろついているのかもしれん。どのくらいの人数だかわかるか」
「四十人かそこらは見かけた。この街道を南からやってきてる」
「そいつらは、ここから先へは進めんな」クリングは狼のような笑みを浮かべた。「じつに実り多い会見だった、わが友ティニアン。少なくともおれと仲間にとっては。どうしておまえたち、自分で賞金をものにしようとは思わないんだ」
「賞金のことは知らなかったのでね、ドミ。しかも教会の仕事は急を要する」ティニアンは顔をしかめた。「それにたとえ賞金を手に入れたとしても、われわれは誓いによって、それを教会に寄進しなければならない。われわれの働きの成果は、どこかの太った僧院長あたりの懐《ふところ》におさまってしまうわけだ。まともな仕事などしたこともないような連中をさらに肥え太らせるくらいなら、誠実に生きている友人に渡したほうがずっといい」
 クリングは思わずティニアンを抱きしめた。
「兄弟よ、おまえこそ真の友だ。おまえと知り合えたことを名誉に思う」
「わたしにとっても同じことだ」
 ドミは指についた脂《あぶら》を革のズボンでぬぐった。
「ではそろそろ出発することにする、わが友ティニアン。ぐずぐずしていては賞金も手に入らんからな」一拍おいて、「やはりあの少年を売るつもりはないか」
「あれはわたしの友人の息子なんだ。わたしは厄介払いしても構わないんだが、友情は大切だからな」
「よくわかった、わが友ティニアン」クリングは一礼した。「今度また神に語りかけるとき、おれのことをよろしく言っておいてくれ」一瞬のうちにドミは馬上にあり、に馬はもう走り出していた。
 アラスがティニアンに歩み寄り、しっかりとその手を握った。
「すばらしい手際だった。あれは実にいい考えだ」
「公正な取引さ。おれ鑽石能量水 問題たちは背後からゼモック人を一掃できるし、クリングは耳を手に入れる。友人のあいだの取引では、両方に何かしら得るものがないとな」
「まったくそのとおりだ」アラスが同意する。「しかし耳を売るという話ははじめて聞いた。たいていは首なんだが」
「耳のほうが軽いし、袋を開けるたびに睨《にら》んだりしないからな」
「いい加減になさい。子供がいるのですよ」セフレーニアの厳しい声が飛んだ。
「失礼、小さき母上。軽い話題のつもりだった」アラスがすんなり謝罪する。
 セフレーニアは足音荒く馬車へ戻っていった。教母が小声でつぶやくスティリクム語の中に、礼儀正しい人々のあいだでは決して用いられない言葉が確かにあったとスパーホークは思った。
「どういう者たちなのですか」たちまち南のほうに見えなくなる戦士たちの姿を見送りながらベヴィエが尋ねた。
「ぺロイだ」ティニアンが答える。「馬の育成に長《た》けた遊牧民だ。この地域にはじめて定住したエレネ人だよ。ペロシア王国という名称は、ペロイにちなんでつけられたんだ」
「見かけどおりに獰猛なのですか」

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